夏と花火と私の死体(さっちょん)

「夏と花火と私の死体」

乙一 著

集英社文庫 2000

 九歳の夏休み、わたしは橘弥生に彼女の兄である健が好きだということを告白した。三人の秘密基地である太い木の枝で健を待っていた時だった。

弥生は同級生で、一番の仲よしだった。ささいな雑談から「健と結婚できないから違う家に生まれたかった」という彼女の心を暴いてしまったことを悔やんだためだった。不公平だと思ったから、わたしも告白した。

そして健の姿が見えて身を乗り出したわたしの薄い上着越しに背中に小さな熱い手を感じた。それが弥生の掌だと思った時、掌は力強くわたしを押し出した。

そしてわたしは死んだ。

駆けてきた健に泣き叫びながら胸にしがみついた弥生は「五月ちゃん滑って落ちちゃった」と嘘をついた。そしてわたしがここで死んだことがばれないようにわたしの死体をめぐる二人の冒険が始まった。

 今回この本を選んだ理由は中学生のまだ本を読んでいたが中二病だった頃の私が好きだった作者のデビュー作だったからだ。この本でまず驚いたのは主人公だと思っていた苅部が死に、その後も死体の目線で語られているところである。死ぬ様も細かく描かれており、想像力が豊かではない私でも想像が膨らんでしまった。さらにあらすじでは省いたがもう一人主要な登場人物が加わり、幼いながらどろどろとした恋愛が繰り広げられている。17歳にしてこの話を思いつき書き上げたことなどもあり、驚きと恐怖を感じるばかりの作品だった。ともに収録されている「優子」も大変面白い作品なのであわせて読んで頂きたい。

↓古川案

 九歳の夏休み、わたしは橘弥生に、彼女の兄である健が好きだということを告白した。三人の秘密基地である太い木の枝に座って、健を待っていた時だった。

 弥生は同級生で、一番の仲よしだった。わたしは彼女とのささいな雑談から、「健と結婚できないから違う家に生まれたかった」という彼女の心を暴いてしまった。それを不公平だと思ったから、わたしも告白した。そして健の姿が見えて身を乗り出したわたしの薄い上着越しに背中に小さな熱い手を感じた。それが弥生の掌だと思った時、掌は力強くわたしを押し出した。

そしてわたしは死んだ。

弥生は、駆けてきた健の胸に泣き叫びながらしがみついた。そして「五月ちゃん滑って落ちちゃった」と嘘をついた。わたしがここで死んだことがばれないように、わたしの死体をめぐる二人の冒険が始まった。

 今回この本を選んだ理由は、中学生のまだ本を読んでいたが、中二病だった頃の私が好きだった作者のデビュー作だったからだ。本作には、なんと言っても主人公が死ぬ、ということに驚かされる。さらに、その後も死体目線で語られている。これは普通ではない。死ぬ場面の描写が詳細で、想像力に乏しい私でも想像が膨らんでしまった。作者はなんと17歳という若さで本作を書き上げた。本作は驚きと恐怖の連続である。同時収録されている「優子」も、@@@という点で、本作に引けを取らないくらい面白い。ぜひこれもあわせて読んで頂きたい。

浜村渚の計算ノート(さっちょん)

「浜村渚の計算ノート」
青柳 碧人 著
講談社文庫 2011年

「少年犯罪の撲滅」を教育の目的とした日本の政府により、数学は少年犯罪の元凶であるとされ、日本の教育から数学が排斥されてしまった。憤慨した数学者、高木源一郎は数学テロ宣言を行う。彼は数学の地位を向上させるため、日本国民全員を人質とした。実は彼が手掛け、公立・私立問わず全国の高等学校で二十年ほど使われていた数学ソフトには、ある種の信号がプログラムされていた。その信号を受け取った人間は皆予備睡眠状態にあり、彼が脳に直接語りかけることで殺人の加害者にも被害者にもなりうる。
驚愕の手口を使ったテロ組織「黒い三角定規」に対抗すべく警視庁にも「黒い三角定規・特別対策本部」が設置された。しかしソフトを一度も見ていない事が条件であったため、集まったのはまったくの数学オンチばかり。
そこで「数学大得意少女」という触れ込みで連れてこられたのは一人の女子中学生、浜村渚だった。

これは数学が嫌いな私が数学が大好きな友人に借りた一冊だ。借りた時には一抹の不安があったが、数学が好きすぎて歪んでしまった数学者たちに、純粋に数学が好きな少女が数学の知識と気持ちで立ち向かっていくストーリーがとても面白く、すぐに読めてしまった。
また筆者の思惑通り、数学にちょっと詳しくなれた気分になり、数学が面白いと思えた。これを機に他の数学を題材にした作品を読み、数学に対する偏見をなくしたい。
↓古川案
日本政府は「少年犯罪の撲滅」を目標に掲げた。少年犯罪の元凶である数学を排除したのだ。憤慨した数学者、高木源一郎は「黒い三角定規」を組織し、数学テロ宣言を行う。彼はなんと、日本国民のほぼ全員を人質とすることができた。実は彼が作成し、全国の高等学校で20年間使われてきた数学ソフトには、ある種の信号がプログラムされていた。その信号とは、ソフト利用者が皆、予備睡眠状態になってしまうものだ。その状態にあれば、彼が脳に直接語りかけ、その人たちをあやつることができる。つまり国民を、殺人の加害者にも被害者にも仕立て上げることができる。
そんな驚愕手口のテロ組織「黒い三角定規」に対抗すべく、警視庁は「黒い三角定規・特別対策本部」を設置した。もちろん対策本部のメンバーは、例の数学ソフトを見たことがない者たちである。要するに、数学オンチ集団だった。
そこで「数学大得意少女」という触れ込みで連れてこられたのが一人の女子中学生、浜村渚だった。
これは数学オンチの私が、数学大得意の友人に借りた一冊だ。読む前は読破できるか不安だった。しかし、読み進めるとそうでもない。数学が好きすぎて歪んでしまった数学者たちに対し、純粋に数学が好きな少女が、数学の知識と気持ちで立ち向かうストーリーがとても面白く、すぐに読むことができた。
また少しだけ数学に詳しくなれた気がしたのは、著者の思惑通りかもしれない。数学を題材にした作品をもっと読めば、数学オンチも克服できるのではないかと思ってしまった。