『知の逆転』
吉成真由美(インタビュー・編)
NHK新書 (2013)
本書は様々な分野の第一線で活躍する専門家とジャーナリストである吉成真由美の対談
を翻訳・編集したものである。
今回の書評では個人的に印象的であったマービン・ミンスキーとの対談を取り上げる
。「なぜ福島にロボットを送れなかったのか」をテーマに対談を行っている。
1989年にアメリカのスリーマイル島で原子力発電所が故障し誰も中に入れないという状
況が発生した。この時彼は、このような人の手が介入できない時に備え人口知能を持った
ロボットの開発を強く訴えた。しかし約30年後の2011年、全く同じことが起こっていた。
なぜ人の代わりとなるロボットは未だ生まれていないのだろうか。その理由は人工知能の
研究者が人間と同じことを行えるロボットの開発ではなく、人間よりも高速で情報を処理
するロボットの開発に重点を置いてきたからである。今のロボットは人間にチェスなど知
能の面では勝てても、人間の行動を十分に代替する段階には至っていないのである。
私はこの本を読み、時に目標を見失ってしまう人間の脆さを感じた。ロボット研究者た
ちは人間とロボットが共存するSFのような壮大な世界を想像し研究を始めのだとうと私は
思う。しかし長年の研究の中でいつのまにか大きな目標は見失い、人間よりも情報処理能
力が高いロボットを作るというこじんまりとした目標に傾注してしまったのではないかと
思った。私は来年から社会人となるが、日々の忙しさに流され初心を忘れるようなことが
ないようにしようと強く思った。